糖尿病の治療
糖尿病のタイプ、年齢、ライフスタイル等、一人一人に合った治療法が重要
従来の糖尿病治療の目標は「良好な血糖値、血圧、脂質のコントロール、適正体重の維持や禁煙などにより、神経障害や網膜症、腎症などの細小血管症や、心血管疾患や末梢動脈疾患などの大血管症といった糖尿病合併症を阻止し、健常者と変わらないQOL(生活の質)の維持や寿命の確保をすること」でありました。
確かに、治療の進歩や糖尿病への理解が進んだことで、合併症は抑制されてきておりますが、別の問題も出てきております。
それは、高齢化社会に伴って、筋力が低下するサルコペニアや、要介護に近い状態となるフレイル、認知症といった疾患を持つ人が増加しており、これらに糖尿病が関与している可能性が報告されております。
糖尿病を持つ御高齢の方が健やかに生きていくためには、これらの予防・管理が重要性を増してきております。
また糖尿病を持つことで、周りの人々から負の烙印(スティグマ)を押され、学校や会社、家庭で社会的不利益や差別が生じる場合があり、我々医療者にとっても大変悲しいことであります。
医療者もやみくもに合併症の恐怖を強調するような情報発信をするのではなく、どうすれば健康な人となるべく変わらない人生を歩むことができるのかを伝えていくことが重要であると考えられます。
様々なライフスタイル、社会的背景や合併症などを考慮して、一人一人に合わせて、食事療法や運動療法、薬物療法を提案します。
糖尿病の食事療法
“画一的な栄養指導は×!糖尿病のタイプ、年齢、ライフスタイル等により食事療法は全く異なる!”
食事療法は糖尿病治療の根幹と考えています。適正なカロリーでバランスよくとることがポイントでありますが、適正なカロリーは体格や年齢、ライフスタイルによって一人一人で異なりますので、具体的な食事内容については一緒に考えていきましょう。
日本糖尿病学会が発行する糖尿病治療ガイドには食事指導のポイントとして以下のようなことが挙げられています。
- 腹八分とする。
- 食品の種類はできるだけ多くする。
- 動物性の脂肪(肉の脂)は控えめに。
- 野菜、海藻、きのこなどの食物繊維をとる。
- 1日3食を規則正しく。
- ゆっくり よくかんで食べる。
- 糖質を多く含む食品の間食を避ける。
間食・おやつのポイントとしては
- おやつを家に常備しないこと。食べたい時に買うことで、ついつい無意識に食べてしまうことを避けましょう。
- 一度で食べきらないといけないものは注意。一人で全部食べずに誰かと一緒に食べましょう。
- 夕飯後の間食は特に注意!寝ている間の高インスリン状態は脂肪燃焼を妨げます。
- 毎日は×!1週間に2-3回と今までより回数を減らしましょう。
- 菓子類よりも、果物や乳製品をできるだけ選びましょう。
- 商品裏の栄養成分表示でカロリーや炭水化物量をチェック! 低い商品を選びましょう。
どれもとても大事なことで、納得のいくわかりやすいものではありますが、食品の種類を多くとは、動物性の脂肪を控えるとはどうすればよいのか。糖質を多く含む食品とは実際にどういうものなのか。こういったことからお話していきます。
また、高血圧症を持っていれば、塩分にも気を付ける必要がありますし、お酒についても注意が必要です。そして、いざ実践できるかというと毎日のことですから、なかなか難しいものです。
例えば、一人暮らしで忙しく働いている人が病院食と同じように毎日自炊できるでしょうか、難しいですよね。
実際にできることを一緒に考えてやっていきましょう。
当院の管理栄養士・糖尿病療養指導士による栄養指導のページはこちら!
糖尿病の運動療法
“筋肉ふやして、お薬へらそう!人生100年時代を生き抜くためのコツコツ貯筋!”
私は大阪市立総合医療センターに在籍時に、入院された方の運動療法を担当しておりました。
老若男女さまざまな背景のある方々と共に、チューブ運動や気軽にできるレジスタンス運動などを行っておりました。食事療法や運動療法によって、お薬を減らすことができると、皆様の達成感にもつながり、私共も凄く嬉しい気持ちになるものです。
さて、2018年の世界保健機関の報告では、運動不足は世界で増加傾向にあり、世界人口の4人に1人(日本人は36%)が運動不足の状態といわれています。
運動不足とは「週に150分の緩い運動、もしくは75分の激しい運動をしない人を、運動不足」と定義されることがあり、運動不足は糖尿病だけでなく、心臓疾患や認知症などのリスクが高まることもわかっています。
交通機関の発達やスマートフォン等、生活が便利になる反面、運動の機会が奪われていると考えられます。
運動のメリットとして
- 死亡率の低下
- 心血管死亡率の低下
- 高血圧症のリスク低下
- 2型糖尿病のリスク低下
- 脂質異常症のリスク低下
- 癌のリスク低下
- 認知機能の改善、認知症のリスク低下
- 生活の質(QOL)の改善
- 不安の軽減
- うつ病のリスク低下
- 睡眠の改善
- 肥満の予防、リバウンドの予防
- 骨が丈夫になる
- 身体機能の向上
- 転倒リスクの低下
といった数々のメリットが報告されています(引用 Physical Activity Guidelines )。
運動療法の種類としては有酸素運動(内臓脂肪を減らすのに効果的)、レジスタンス運動(筋肉をつけるのに効果的)、筋調節運動に分けられます。糖尿病をよくする効果的な方法は有酸素運動とレジスタンス運動を組みわせることです。
有酸素運動
- ウォーキング、自転車、水泳など。
- 1回あたり10分以上の運動を、1日30分、1週間で150分以上が理想です。
レジスタンス運動
- マシーン、ダンベル、自重運動、チューブ運動など。
- 1セット10-15回反復できる運動を1日1-3セット行うことが理想です。
- また、間隔を1日以上空けて、週2-3日の頻度で行いましょう。
筋調節運動
- ストレッチ、ヨガ、太極拳など。
- 1週間に2-3回以上。
- 血糖値を改善する効果は乏しいが、関節や転倒予防への効果が期待されています。
また、運動の効果には①急性効果と②慢性効果があり、①急性効果とは、食後の血糖値の上昇が1回の運動により改善することを指します。
運動する
↓
筋肉がブドウ糖(血糖)を燃料として消費する
↓
空っぽになった燃料を補給しようとして筋肉がブドウ糖(血糖)をたくさん取り込む
↓
血糖値が下がる
②慢性効果とは、運動を長期間にわたって継続することで、運動していない時でもインスリンの効きがよくなることを指します。
運動を継続的におこなう
↓
筋肉増える、内臓脂肪・筋肉内脂肪減る
↓
インスリンが効きやすくなる
↓
血糖値が下がりやすくなる
また、食後に座って過ごした場合と、30分間毎に3分間の歩行かレジスタンス運動を行い、食後の血糖値の動きを比較した研究(Diabetes Care 2016;39:964-72)があります。
たった、30分毎の3分程度の軽い運動でも血糖値へのよい影響が認められており、
“30分以上連続して座らない!30分に1回は立ち上がりましょう!
テレビを見ているときも、CM毎に立ち上がりましょう!!
糖尿病の薬物療法
食事や運動等の生活習慣改善の取り組みをしても血糖値や体重のコントロールが不十分な場合は薬物療法も検討します。
また、HbA1cが高い状態で糖尿病がみつかった場合は治療開始時からの薬物療法が推奨されています。
糖尿病のお薬は非常に種類が多いですが、その中から、心臓や腎臓等の合併症に対して効果がある、血糖コントロールを改善する、低血糖を起こしにくい、体重を増やさない・減量効果がある、飲みやすい薬・使いやすい注射、そして、リーズナブルであるといったそれぞれの薬の特長を生かしつつ、皆様と一緒に相談しながら一人一人に合った最適な治療法を提案していきます。
糖尿病のみならず、高血圧症や脂質異常症、高尿酸血症・痛風などの生活習慣病、そして慢性腎臓病等は治療期間が長期に及ぶことから皆様が支払うお薬代(コスト)も考慮していく必要があると私は考えます。
現在、使用できる糖尿病のお薬には以下のものがあります。まず、薬が効く機序によって、インスリン分泌非促進系とインスリン分泌促進系、インスリン製剤に分けられます。
インスリン分泌非促進系
膵臓のベータ細胞からのインスリンの分泌を増やさずに血糖値を下げる薬です。
- ビグアナイド薬:肝臓での糖産生を抑えます。
- チアゾリジン薬:骨格筋・肝臓でのインスリン抵抗性を改善します。
- α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI):腸管での炭水化物の吸収分解を遅らせることで食後の血糖上昇を抑えまえ。
- SGLT2阻害薬:腎臓でのブドウ糖の再吸収を阻害して尿中へブドウ糖の排泄を促進します。
インスリン分泌促進系
膵臓からのインスリンの分泌を増やして血糖値を下げる薬です。
さらに、①血糖依存性(血糖値に応じてインスリン分泌を調節する)と②血糖非依存性(血糖値に関わらずインスリン分泌を促進する)の薬に分けられます。
血糖依存性
- DPP-4阻害薬:消化管ホルモンであるGLP-1とGIPの分解を抑制し、血糖依存性にインスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑制します。
- GLP-1受容体作動薬:GLP-1作用の増強により血糖依存性にインスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑制します。
血糖非依存性
- スルホニル尿素(SU)薬:インスリン分泌を促進します。
- 速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬):より速やかなインスリン分泌の促進、食後高血糖を改善します。
インスリン製剤
食後高血糖を改善する超速効型や速効型インスリン製剤と空腹時高血糖を改善する持効型や中間型インスリン製剤等があります。
下記のインスリンを1種類もしくは組み合わせて使用します。
- 基礎インスリン製剤(持効型溶解インスリン製剤、中間型インスリン製剤)
- 追加インスリン製剤(超速効型インスリン製剤、速効型インスリン製剤)
- 超速効型あるいは速効型と中間型を混合した混合型インスリン製剤
- 超速効型と持効型溶解の配合溶解インスリン製剤
糖尿病はありふれた疾患と思われるかもしれませんが、治療は食事療法や運動療法、薬物療法と多岐にわたり、薬を飲んでおけばよいという単純で簡単なものでもありません。
当院では糖尿病専門医・研修指導医としての経験や知識を生かしつつ、皆様の生活スタイルや背景も考慮して、一人一人に合った最適な治療法を提案していきます。
大阪、都島・野江内代のサクラ糖尿病・腎臓・内科クリニックでは2人の専門医が内科を幅広く診療しております。困った症状は放置せずに受診をおすすめします。